表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 買いだめ。(最新号 令和8年6月)
工務店に頼んで、棚を吊ってもらいました。その時の社長の話では、シンナー不足は本当に深刻なようでした。不足というより、買いだめ、売り惜しみが横行しているようでした。塗料店に前日には棚いっぱいあったシンナーの缶があくる日には一つも無くなっているのを目撃したそうです。どうやら誰かの買いだめではなく店が倉庫にひっこめたらしい様子だったといいます。
トランプさんの戦争で、ヘルムズ海峡が通れなくなり、ペルシャ湾から輸出されるはずの原油を積んだ船がアラビア海に出て来れなくなってしまいました。私たちは原油由来の製品に囲まれて生活しています。シンナーもその一つです。おかしなことにシンナーガ注目されていますが、他の石油由来の製品も、もし戦争が長引けば、やがて品薄になることは必定です。
政府は、原油は来年初めまで手当てがすんでいるので、心配せずに落ち着いて経済活動を行ってほしいといっています。政府の発言に嘘はないでしょう。しかしそれは国民が政府の言明を信じて合理的に行動した場合の話です。
経済学は、人間が合理的に行動するという前提のもとに理論が組み立てられてきました。ところがよく観察すると決して人間は合理的に経済活動を行っているのではないとわかってきました。
知り合いの奥さんは、街を歩いていて行列ができていると、ふらふらと行列に加わり、前後の人に何の行列か聞くのだそうです。食べ物とわかると、お腹が空いていなくても買って食べるのだと自慢していました。
テレビショッピングで、10万円のテレビを、今日だけ一時間以内に申し込んだ方に5万円で提供しますといわれると、多くの人が申し込むのだそうです。もともとの値段が5万円だったりします。
ものの本によると、医者に今度の手術の成功率は90%だといわれると大抵の人は手術を受けます。ところが、今度の手術の失敗率は10%ありますといわれると尻込みする人が増えるということです。
これらは正常時における人間の行動です。おかしくてもこれが人間です。これが戦争などの異常な事態になると、人間の不合理な行動がさらに増えるのです。
かくいう私も恥ずかしながら買いだめに走りました。
私は3か月に一度、ネットで介護用品を買っています。先日、注文画面を開いた時、よからぬ考えが浮かびました。今日注文する中に、無くなったら本当に困る品がある。これだけは確保しようと、その品物だけは6か月分頼んでしまいました。こういう小さな行動が重なって、製品流通が目詰まりするのでしょう。
ホルムズ海峡が早くに開放されれば、私の行動はお笑いです。しかし、もし事態が長引き、かつ何らかのきっかけで政府の信用が損なわれれば、人は予想のできない行動に出るでしょう。私の買いだめがお笑いであってほしいものです。
石川恒彦