表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > リミタリアニズム(最新号 令和8年9月)
夏休みが終わるのを心待ちにしている子供たちがいるといいます。怠惰な子供だった私は、夏休みがいつまでも続けばいいなと思っていました。それで、ちょっと驚きました。
よく聞くと、彼らは困窮家庭の子供たちで、給食が待ち遠しいのだといいます。一時の輝きはないものの、豊かな社会であるはずの日本で、夏休みの間、ひもじい思いをしていた児童がいたとは、俄かには信じられません。
子どもだけではありません。この暑い夏に、熱中症で家から病院に担ぎ込まれる老人が沢山いました。看護師が事情を聴くと、冷房は家にあるが、電気代がもったいないからつけずにいたという老人が多いのだそうです。
一方で、とんでもない金持ちがいます。先日、中野の時計店に強盗が入りました。4個で2億円の時計を盗みました。一個平均5000万円です。こんなものを買える人がいるんですね。投資として買うんでしょうか。それにしても将来の値上がりと購入者の存在を確信しているわけです。
日本は、ゆっくりとですが経済成長しています。その果実は、一握りの富裕層に行って、庶民には届いていないといわれます。「富めるものはますます富み、貧しいものはますます貧しく」なっているのです。
これは日本だけではありません。
世界の人口1%の人の所得と資産の合計が、残りの99%の人の所得と資産の合計の2倍になっているという計算もあります。アメリカの主要企業のCEOの平均所得は2,280万ドルだそうです。今の相場で、約36億円です。CEOと一般従業員の給与格差は平均で約285倍、コーヒーのスターバックスでは、6666倍だといいます。
CEOといえども、会社の雇われ人です。彼らを実質的に雇う大株主の投資家たちは、株だけではなく、不動産や債券に投資をして、もっと莫大な利益を得ています。
いくらなんでも、これは正義に反すると、所得格差を是正するための提案が盛んにおこなわれています。
その一つが、リミタリアニズムです。上限主義とでも訳しましょうか。人間、際限のない富の集積を行っても、一定の線を越えれば幸福が際限なく向上するわけではない。そこで、一定の線を越えた財産は、公的に収容して、貧困者の福祉にあてようというのです
。 実際、今日の貧困は、1%の超富裕層にお金が集まって、公的部門の資金が足りなくなり、貧困の救済にあてるお金がないという現実があります。リミタリアニズム高邁な理想です。
悲しいことに実現しないでしょう。まずこれは一国だけでやっても効果はありません、金持ちは上限のない国に財産を移すでしょう。たとえ、奇跡的に世界が一致して上限主義を取り入れても、金持ちは必ず抜け道を探すでしょう。
しかし、貧富の格差の拡大は目の前で起きています。何とか現実的な道を探せないでしょうか。ひもじい子供の存在は見ていられません。リミタリアニズムの理想主義は、私たちに、行動せよと呼びかけています。
石川恒彦