表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 大国(令和5年5月)
今年は私たち夫婦が結婚して50年目に当たります。うれしいことに、子供たちが、わたくしたちに内緒で、宴席の準備をしてくれているようなのです。そこで、お礼の印に、何か記念品でもと思うのですが、なかなかいい考えが浮かびませんでした。
そんな折、テレビニュースを見ていたら、ウクライナの大統領のTシャツに気が付きました。なかなかいいデザインです。ささやかだけど、ウクライナの応援にもなると、購入を考えているところです。
ソ連が解体した時、旧ソ連構成国は、西ヨーロッパに引き入れられないと、ロシアの指導者は理解していたし、西側首脳もそれを約束していたともいわれます。それがふたを開ければ諸国は雪崩を打ったようにNATO加盟に走り、残ったのは、ベラルーシ、ジョージア、ウクライナなどになりました。
これらの国は、ロシアに国境を接します。これらの国がNATOに入れば、ロシアは西側と直接対峙することになります。それを避けたいという心理が、今回の侵略に働いたのでしょう。ウクライナがロシア側についているのが、ロシアにとって死活的重要性を持っているとロシアの指導者は考えたに違いありません。
第二次世界大戦前、日本の軍部は満州、朝鮮、台湾は日本の生命線だといい、これらを失うことを恐れて、大軍を配置しました。しかし、敗戦によって、すべてを失ったとき、日本はかえって、未曽有の繁栄を見ました。
戦後に総理大臣になる石橋湛山は、早くも大正時代に、小日本を唱えていました。多くの植民地を抱え、その統治のために、多大な資源を割くより、友誼を結んで、貿易を行うほうが、はるかに日本のためになると説きました。大日本帝国を否定したのです。
ロシアも、守るために攻める思想に染まっているように見えます。ロシア本体の周りに緩衝国を置くことによって、ロシアの国土が守られると考えているようです。
ロシアのウクライナ侵攻は、我々の眼から見ると、正義に反しています。しかし国際社会において一定の理解を得ていることも事実です。それは、超大国アメリカの独りよがりの行動に対する反感からきているようです。それはロシア国内においても言えて、長い冷戦の経験から、ウクライナの後ろにはアメリカがいる、この戦争はアメリカに対するものだと宣伝して、これも一定の支持を得ているようです。
今のところアメリカは、実戦以外のあらゆる援助をウクライナに与えているようです。しかし、アメリカの世論は忍耐強くありません。戦いが伸びれば、援助を中止する可能性も否定できません。その機会をロシアは辛抱強く待つでしょう。ロシアは耐えて、ナポレオンやヒットラーに勝利した国だというのが、指導者の信念でしょう。
しかし、ロシアがウクライナを支配下に入れた時、ロシアは残忍な侵略の付けとして、強烈な反ロシアのウクライナ人に気が付くでしょう。そのため強力な軍隊をウクライナに置かねばならないでしょう。皮肉なことに、その時ロシアは、西欧と直接対峙することになります。戦争より友好だと気が付いても遅すぎます。
石川恒彦