表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > シール貼り(令和5年7月)
ほんのはずみから絵本にシールを貼っています。時々、シャンティ国際ヴォランティア会(SVA)というところから、パンフレットがきます。先月は、途上国の子供たちに日本の絵本を贈っているが、その絵本に現地の言葉のシールを貼ってくれないかと言ってきました。
最近、私は病妻に付き合って、テレビをよく見ています。どうも退屈で、持て余していましたので、シール貼りをしながらテレビを見ているのも悪くないと、応募することにしました。参加費2500円を送ると、「あなたのいえ わたしのいえ」という絵本と、ラオス語のシールを送ってきました。そのシールを切り抜いて、絵本の日本語の文の上に貼り付けるのが仕事です。
やってみると簡単ではありませんでした。まず、線に沿ってシールを切り抜くのですが、線を残してはいけないというので、結構注意がいります。切り抜いたシールは知らない文字で埋まっています。うっかりするとさかさまに貼りそうになります。少したって気が付いたのですが、うまくできていて、シールの下の角は直線に切り抜き、上部は曲線に切り抜くようになっています。
それを貼るのも大変です。文字列が水平になるように、しかも、絵にかぶらないように貼らねばなりません。とてもサンマの歯を見ながらというわけにはいきません。
戦中戦後に子供時代を過ごした私には、とても粗末な絵本しかありませんでした。それを何度も読み返したものでした。祖母の寝物語は、楽しみでしたが、金太郎、桃太郎、浦島太郎以外は、すっかり忘れてしまいました。
今の子供は、絵本よりスマホかもしれません。でも、先日娘が来て、うちの子はスマホばっかりやっていたが、どうしたきっかけか、絵本を読むのに目覚めて、すっかり夢中だといいました。ちょっとうれしくなりました。
絵本に限らず、本には、何度も読むうちに、はじめは気が付かなかったことに気づき、世界がどんどん広がっていく気がするときがあります。孫はそういう世界を見つけたのかもしれません。
娘が幼児の時、本を読んでやるのは母の仕事でした。お気に入りの本があって、いつも同じ本を読まされていました。当然母は飽きてきて、娘が眠り始めると、少し端折ったりしました。すると、娘は目を開けて「おばあちゃん、違うよ」と、苦情を言ったそうです。どうやら娘は話を空で憶えていて、母の声を聞きながら、どこか大人の知らない世界に行っていたのでしょう。
SVAから届いた絵本は、きれいな絵と立派な装丁の本でした。これだけで宝物になりそうです。それを、私の張ったラオス語で読んでもらえるのは、楽しみです。多分、図書館に収まったり、友達と回し読みをしてくれるでしょう。この絵本を通じて、沢山の子供に新しい世界が開かれるのを願ってやみません。
ただ、問題は、私の作業です。一部シールが曲がったり、よれたりしています。これを見た、SVAの職員が、もうこの爺には頼まないと思わないか心配です。
石川恒彦