表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > 次の大震災(平成30年3月)
私たち日本人は、地震に馴れっこになっています。少しくらい強い地震が来ても動じません。地震学者は「日本中、いつでもどこでも巨大地震に見舞われる可能性がある」と永いこと警告しています。それでも大部分の私たちは、自分のところには来ないだろう、来てもなんとかなるだろうと、考えています。甚大な被害を出した東北や神戸の人たちも、大地震の直前までそう考えていたと思います。
福和伸夫さんの「次の震災について本当のことを話してみよう」を読みました。くだけた書名ですので、気楽に買いました。しかし、内容は、とてもまじめでした。福和さんは、名古屋大学の教授、名古屋大学減災連携研究センター長です。
福和さんの信念は、「大震災は必ずやってくる。備えあれば被害は必ず軽減できる」です。
東京、名古屋、大阪は、戦後70年、大地震に会いませんでした。歴史的にみて、これは非常に幸運なことでした。戦後の復興は、この幸運がなければ成し遂げられませんでした。この3都市の海沿いの土地は、山から雨によって運ばれた土や、人間が運んだ土で埋め立てられた土地です。そこは 非常に軟弱なズブズブな地盤です。軟らかい地盤は地震の揺れを増幅させます。そこに工場が立地し、住宅が密集しています。そのうえ最近では高層ビルが増えています。
ひとたび大地震が襲えば、甚大な被害が出ます。工場で固定されていない機械があれば、それが暴れまわります。住宅密集地では古い建物が倒壊して人を死傷させ、火が出れば延焼を止められません。高層ビルは揺れることによって地震のエネルギーを吸収して強度を保っています。しかしそれは低周期の揺れに対してです。大地震で発生する長周期の揺れは、軟弱な地盤に立地する超高層ビルの最上階を横に10mも揺らすといわれます。
大地震近しの意識をもって、最近では会社や工場で、被災後直ちに仕事を再開できるように計画を立てているところが多くなりました。しかしそれは、たいてい大甘です。大震災の被害は自分のところだけに起こるわけではありません。取引先も被害を受けることは必定です。従業員はどうでしょう。被害を受けて避難している人が沢山出るでしょう。道路や鉄道が寸断されて、従業員は出勤できず、物流も止まって部品は入らず製品は出荷できなくなります。電気や水道が止まれば、事務所でも工場でも仕事ができません。
日本の経済を破壊し、ひいては世界恐慌を起こす可能性さえあります。
しかし、ホンネとホンキで、最悪を想定して大地震に備えれば、大幅に被害を減らすことができるというのが福和さんの意見です。
まず建物を補強します。家具や機械を固定します。行政は避難道路を整備します。それは補給道路にもなります。引っ越す時には地盤堅固なところを選びます。
福和さんはいろんな防災グッズを薦めていますが、私が感心したのは、ホイッスルです。閉じ込められた時、少量の息で大きな音を出せます。それに名前、連絡先、血液型などを書いた紙を入れておくといいそうです。
オオカミ少年にはなりたくありませんが、次の大震災はすぐそこのようです。
石川恒彦