表紙 > 隠居からの手紙 > バックナンバーもくじ > あふれるカタカナ、ローマ字(最新号 令和8年3月)
町から医院や診療所が消えつつあります。多くの医院、診療所がクリニックと自称するようになりました。さすがに病院はそのままで、ホスピタルと名乗るところは少ないようです。
日本の山も無くなっています。飛騨山脈、木曽山脈、明石山脈をご存じですか、いつの間にか名前が変わって、北アルプス、中央アルプス、南アルプスになってしまいました。南アルプス市などというけったいな名前の町まであります。
カタカナはまだいいほうで、JT、JR、JAなどというローマ字の略称が大手を振って歩いています。JはジャパンのJで、それぞれ、日本たばこ、日本鉄道、日本農協のことですね。だいたい、私たちは日本という由緒ある立派な名前を持っているのになぜ、外国向けはともかく国内でもジャパンなのでしょう。オリンピックの応援に行って、ジャパン、ジャパンと応援する人はいません。ニッポン、ニッポンです。
江戸から明治に時代が変わって、それまで日本にはなかった概念が西洋から入ってきました。先人たちはそれらの言葉を苦労して日本人にわかるように、新しい日本語を作りました。社会、自由、哲学、科学、経済、芸術などです。これらを翻訳せずに外国語のまま使っていたら、「ジャパンのソサイアティにはリバティが必要だ、それによってフィロソフィ、サイエンス、エコノミー、アートの発展が期待できる」、何のことかわかりません。
西欧でも時代の発展により新しい言葉が出来ました。それにも日本人はうまく対応しました。自動車、汽車、飛行機などです。傑作はオリンピックを五輪と呼んだ人でしょう。
ところが、情報が高速度で世界中に広がるようになると、どこの国でも新しくできた言葉をそのまま使うようになりました。IT(情報技術)、AI(人工知能)、LAN(構内通信網)などです。変な言葉もあります。クッキーはフォーチュンクッキーの中から出てくるおみくじに習って、情報をしまっておくことから来たようです。中途半端なのもあります。生成AI(生殖人工知能)は日本ではGAIとは言わないようです。
日本語がありそうなのにあえてローマ字を使っている例もあります。CEOが例です。その役割を聞くと、日本語では大番頭というのがあっていそうですが、古臭いといって使われません。それなら字義通りに主任執行役員はどうでしょう。コンピューターは計算機、マウスはネズミと呼んでほしい気もします。
困るのは、原語とは違う使い方をされているカタカナ語です。洗濯屋はクリーニング屋といいますが、英語圏では使われません。ランドリーが普通です。ところが最近コインランドリーというのが出てきました。これも英語圏では使われず、アメリカではローンドロマット、イギリスではローンダレットというようです。
マンションも変な和製英語です。原語では大邸宅を意味します。日本のマンションは外国ではアパートメントです。高級アパートメントと呼びたければ呼ぶべきでしょう。
言葉は常に変化しています。そこで、正しい日本語、正しい英語は存在しないという人もいます。それでも。格好がいいとか、うまい訳語が見つからないとか言って安易にカタカナやローマ字を使うのは、日本語の発展とは言えないと思います。
石川恒彦